« 今週のレッスンはお休み | トップページ | 研究会・研究会・研究会! »

2011年11月 9日 (水曜日)

脳出血治療の問題点

ときどきマジメな話をします。

脳出血の微妙な問題について。

 

脳出血(脳内出血)とは,脳内の血管が切れて出血することを言います。脳動脈瘤が破裂するクモ膜下出血と脳出血は区別します。

脳出血はほとんど高血圧のために起こる病気です。

高血圧に耐え切れない脳内の細い血管が破れて出血するのです。したがって,治療の基本は血圧を下げることです。血圧を下げてあげるだけで,大概の出血は自然に止まります。それが間に合わないで,血腫(出血の塊)が大きくなってしまったら手術で取ることも考えます。

 

とにかく血圧を下げる必要があるのです。

 

さて,注射で血圧を下げるお薬は以下の3種類しかありません。

  • ニトロール
  • ペルジピン
  • ヘルベッサー

このどれかで血圧を下げるのです。

しかし,ニトロールはあんまり血圧が下がりません。ヘルベッサーもあまり血圧が下がらず,大量に使うと脈拍が下がってしまう特徴があります。

切れが良くて調節しやすくて,しっかり血圧が下がるのはペルジピンです。

 

したがって,脳外科の医師はみんなペルジピンを好みます。

しかし,大きな問題点があるのです。

 

ペルジピンの添付文書には,「完成していない脳出血には使わないでください」と書いてあるのです。

なぜかと言えば,ペルジピンは血管を拡張させることで血圧を下げる薬です。出血している血管を広げたら,血が止まりにくくなる可能性があります。そういう意味で,書かれているのです。

 

とはいえ実際には,脳出血急性期には血圧を下げることが最も大事です。

多くの脳外科医は,ペルジピンを使って血圧を下げようとします。

 

 

とある病院が裁判沙汰になっています。

脳出血に対してペルジピンで血圧を下げた患者さんが不幸にして亡くなりました。患者家族がカルテ開示を求め,そこでペルジピンが使われていたことを知りました。そして,ペルジピンの添付文書を見て,脳出血急性期に使われたことが死亡の原因であるとして告訴しているのです。

おそらく,主治医は良かれと思ってやったことが,残念な結果につながっているのです。

 

ペルジピン以外の薬では脳出血の高血圧を下げることは(おそらく)不能でしょう。でも,結果を出せずに死亡した場合には,「あら捜しモード」になってしまうのです。

 

とある病院では,こうしているそうです。

 

まず,脳出血の患者さんにはヘルベッサーかニトロールを使います。でも,これじゃ血圧は下がりません。そこでカルテにこう書くのです。

「ニトロール(ヘルベッサー)を投与したが,降圧が得られないためやむを得ずペルジピンを使うことにする」

別の病院はこうしています。

「CTで脳出血と診断したら,10分後にもう1回CTを取ります。そして画像に変化が無ければ,脳出血は完成しているとしてペルジピンを使う」

どちらの病院も基本的にペルジピンを使いたいのです。

でも,使ったときに訴えられたくないので言い訳をつくるのです。言い訳作りのために,効くはずの無いニトロール(ヘルベッサー)を使ったり,意味のないCTを取るのです。

 

 

本当なら,ペルジピンの添付文書を改定すればいいのですが,うまく行きません。

これを改定するためには,脳出血の急性期患者にどんどんペルジピンを投与して安全性を確認しないといけません。それに関わるコストは全て製薬会社が負担します。この不況のご時勢で,メーカーは金を出しません。

 

これからも,この状況がつづきます。

脳出血の急性期に最も必要な薬はペルジピンです。

でも,ペルジピンの添付文書には「脳出血の急性期には使わないで」と書かれています。

|

« 今週のレッスンはお休み | トップページ | 研究会・研究会・研究会! »

医学・学会・専門医」カテゴリの記事

コメント

ペルジピンの添付文書は2011年6月に改訂されました。
ICH急性期の使用が禁忌から慎重投与に変更されましたよ。現場の医師の努力によって。

しかし、これ以前にペルジピンの使用で訴えられた医師はたくさんいます。まったくやりきれない重いです。

投稿: とある脳外科医 | 2012年3月27日 (火曜日) 07時09分

とある脳外科医さん

添付文書改訂されたんですね。情報ありがとうございます。救急病院にいたのは3年前のことでしたが,病院を離れられない脳外科の先生方のつらさは覚えています。

そんな中で添付文書を改訂するためには,寿命をすり減らすほどの多大な労力を消費したと思います。ペルジピンの使用で訴えられた医師たちを思うと,私も残念でなりません。

投稿: おくちん | 2012年3月27日 (火曜日) 07時40分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 脳出血治療の問題点:

« 今週のレッスンはお休み | トップページ | 研究会・研究会・研究会! »