私が医学部学生だった頃,現在とはかなり異なる授業でした。
【私の6年間】
- 1年次: 他学部と一緒に一般教養,物理・化学・生物はあり,体育もあり
- 2年次: 前半は一般教養の続き,後半は解剖学と生化学の講義
- 3年次: 基礎医学全般の講義,午後は解剖実習など
- 4年次: 臨床医学の講義スタート
- 5年次: 臨床医学の講義,後半から病棟実習スタート
- 6年次: 臨床実習(~7月),9月から卒業試験だけ
現在の医学生は,1年次から医学の講義が始まってますし,5年次の最初から臨床実習が開始されます。また,それ以前にもチョコチョコと臨床実習の機会があります。私の頃に比べれば,全体として1年以上前倒しになっているようです。
ところが,それでも変わらざるを得なくなっているのが授業内容です。
現在の講義主体の授業では,国際的な医学部基準をクリアしていないそうです。つまり,日本で医師をする分には全く問題ないのですが,海外で医師をするには臨床実習時間が大きく不足しているそうです。
このような時代ですから,海外基準をクリアすることを求められています。
やることは簡単です。
大幅に実習時間を増やして,その分だけ講義の時間を削るわけです。
ただ,その結果,どうなるかといえば,
各病棟に20人くらいの医学生が常駐します。ちなみに,田舎ですので各病棟に医師は10人もいないと思います(診療科によって差はあります)。全部で5~6人しか医師のいない診療科もあります。これで患者対応をしながら学生対応をする…。結構キツいものがあります。というか,医師にも「能力」が要求されますね。
で,病棟に20人も医学生がいると,正直なところジャマです。電子カルテを学生が使うと,医師のみならず看護師も記録を入れられません。なので,たいていは看護師長から何らかの苦言がきます。
ですから,病棟ではなく外来に学生を移動させます。
実際,医学教育においては医学生にも初期研修医にも「外来実習・外来研修」が強く推奨されています。
では,学生を大量に送り込まれた外来担当医。これはこれで苦労するわけです。
患者さんも,診察室に入って見知らぬ学生が数名いたら,相談したいことも相談できなくなるかもしれません。これも診療科によりますが,私の腎臓やリウマチ疾患患者は,妊娠のことをはじめ,かなりプライベートな相談もあるため,ハードルが上がります。
※ ま,そういう相談を受けずに病気のことだけ診ていたら,それはそれで楽ですが(苦笑)
すると,「再診」患者じゃなくて「新患」患者の外来に学生を集めようってことになります。以前に書いたような気がしますが,新患外来はかなり時間が掛かります。大学病院ならではの同意書の山とか,カルテに書くことが相当多いこととか,紹介先に丁寧なお返事を作成したりで,ま,最短でも1人20分はかかります。ここに学生がいて,放置するならいいんですが,質問を受けたりミニレクチャーしていると,規定時間に終わらないわけですよ。
正確に言えば,学生は昼になったら上がります。何人患者が残っていても。で,学生がいなくなってから外来ペースを上げていく…と。内情を知らない新患患者たちは,「やっぱり待たされるな…」と思ってるはず。
いずれ,外来担当医からも「これでは進まない」と各科のミーティングで話題が出ることは避けられません。何せ,これが恒常的に続くわけですから。
では,どうするのか。
今度は,医学生を関連病院にお願いするという作戦が浮上します。
でも,田舎です。田舎の市中病院は本当に戦場です。戦場で学生に優しくできるのか…。それに市中病院に長く勤めている医師は,研修医は慣れていても医学生の扱いには慣れていません。研修医と同等に扱うか,あるいは放置するか。
そうすると,医学生が「放置されて何も得られなかった」と言うわけです。
そして,「卒業したら県外だな」とか思っちゃうわけです。
困りましたね。
ついでながら,実習時間を増やしたせいで,大幅に講義時間は減ります。この場合,どうすればいいんでしょうね。
質を落としたくないので,分野を絞って講義し,教えない部分は自分で何とかしてもらうのか,すっごく広く浅く教えるのか。
でも,広く浅く教えると,結局は「すべて覚えろ」的な展開になるんですよ。なぜ,この症状が出るのかとか,なぜ,この検査が陽性になるのかとか教えていると,新しい講義時間では足りないのですよ。
結論。
新しい医学教育としての臨床実習時間アップは避けられません。
しかし,これに対応するためには医師・教官の多大なる意識改革が必要とともに,医学生にもかなりの能力(努力)が必要だと思います。
実習に試験はほとんどありません。黙って見学していても卒業はできますが,大いなる差が卒業時点でついていることでしょう。
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